カラリ、と涼やかな音がした。動いた拍子に翼と翼とがぶつかった音だった。
 少年はひたりと動きを止め、音の源を探す。
 視線を巡らせると、無数に浮かんだ昏く輝く瞳が一斉に少年を向いた。
 床に、棚に、そして天井から吊るされた鳥たち。
 その翼は、ただひとつの灯りである小さなランプの光をうけて透明に透き通っていた。
 少年は今度こそ鳥たちに触れない様にして、足を踏みだす。一歩、また一歩と足音を立てることさえ惜しんで慎重に進む。
 そして辿り着いたのは、小さな一羽の鳥の元だった。
 とりわけて蒼い光を放つそれは、触れれば壊れてしまいそうな儚さと危うさを秘めていた。
 だからこそ、美しい。
 そっと両手でそれを掬い、愛しいものに向ける瞳で小さな芸術品を見つめる。しばらくそうしていたかと想うと、少年は哀しそうに面を伏せた。
「これも、違う」
 蒼が、手のひらから零れ落ちる。
「僕の”あおい鳥“」
 こつん、と繊細な翼が床を打つ。
「たくさん創ったのに、まだ」
 カシャンという小さな破壊音。
 少年がゆっくりと感情が廃された瞳を下へ向ける。慈しみの欠片も見当たらない眼差しで、見下ろす。
 砕け散った羽根は、瞳は、無機質なガラス片。
 ひとつ手にとると、それはひやりとした冷たさを持っていた。それを、強く握り締める。
 ぽたり。一滴、紅が床に落とされる。
「ねえ」
 少年は虚空を見上げた。ランプ一つだけに照らされたその部屋は、少年しかいなかった。
 後は、少年の手から生み出された、ガラスの鳥たちだけ。
「これだけ創っても、まだ違うの?」
 問いかけへの返事はない。あるはずがなかった。
 なおも少年は声を張り上げる。
「僕の”あおい鳥“は何処? ねえ!」
 そして少年はひとり、創り続ける。蒼く煌く、ガラス細工を。
「僕は、いつになったら」
 その、誰にでも許されるはずの望みのために。
 少年はぽつりと呟いた。
「”しあわせ“になれるの?」
 ずっと、ひとりで――外に広がる世界を、知らぬままに。
 泣きそうな顔で少年は俯いたけれど、涙は流れなかった。










蒼い鳥
窓のないその部屋は、出口のない、永遠の居場所。
「蒼い鳥」なのに、題名の色は赤。 最近は、ほのぼのと平和ボケしたような小説ばっかりだったのでー。 逆に今までみたいなのが、すごく新鮮に感じます(笑 ちなみに、「あおいとり」モチーフの小説は2パターンあります。 あともうひとつの方は、後少ししたら更新する……予定。   08/11/02  Thank you.