朝起きたら、身体の節々が痛かった。
「ん………ねみぃ」
 寝たはずなのに寝た気がしない。ゆっくり目を開くと、目の前が真っ黒だった。
 ああ、そうだ。まだはっきりとしない頭で思う。昨日本を読んでて、アイツが「そのまま寝ないでね」って笑って、俺が「寝ねえよ」って言って……。
「……そのまま寝たんだよな」
 だんだんと思い出してきた。ふう、と息を吐く。
 それから顔の上に乗っていた本を右手で掴む。ぎしり、とソファのスプリングが軋んだ。そういえば、ソファで読書してたんだよな。
 きっと今ごろアイツは怒ってるだろう。そういえば昨日は約束の日だった。
 どうやって機嫌をとろうか、なんて考えながら、俺はソファから足を投げ出した。


 キッチンに行くと、アイツが朝食を作っているところだった。アイツお気に入りの赤と白のストライプ柄のエプロンを腰に巻いている。トントンと一定のリズムで包丁が音を刻む。
 こういう姿を見ていると、俺たち結婚したんだよなあ、なんて実感する。
 幸せをかみ締めたところで、俺は後ろから忍び寄って行き成り抱きついた。
「おはよ、レフィ」
 耳元で囁いてやる。アイツ――レフィは、
「うん、おはよー」
 と普通に返してきた。おや、と思う。反応がいつもと変わらない。……怒ってないのか?
「今ご飯作ってるから、ちょっと待っててよ」
 不満そうな声が上げられる。いつもなら、ここでもっと強く抱きしめるところなんだが。
「あーわかった」
 今回ばかりは引いた。というのも、唯単にまだ眠かった。
 それから俺はのそのそとキッチンから出て行くことにした。
「あ、それと、さっさと着替えてきて」
 背中に掛けられた声に、了解という意味を込めて、ひらひらと手を振った。


「おー」
 良い匂いが鼻腔を擽る。白のシャツに黒のワークパンツに着替えた俺はリビングへと向かっていた。
「できてんな、朝食」
 ドアを開けてそう声を掛けると、レフィは得意そうに笑った。
 元々謙遜とかそういうものとは無縁に生きてきたヤツだ。レフィらしい笑みだった。
「さ、早く食べよ。今日はチキンライスだよ」
 あれ、と俺は引っかかった。確か昨日の約束とは、一緒に買い物に行くことで、チキンも買うはずだったんじゃあ……。
 次の瞬間、俺の疑問は実に速急に解決された。
 コトリ、と目の前に置かれた皿を見て、俺は顔が引き攣っていくのがわかった。
 次いでレフィの前に置かれた皿も、同じような状態だった。更に表情が強張る。
 皿の中には、実に美味しそうなケチャップライスが盛られていた。……チキンが何処にも見えない。
 俺は平然とそれを食べるレフィに、恐る恐る呼びかけた。
「なあ、レフィ」
「何かしら? クロード」
 レフィが「何かしら?」というのは怒っている証拠だ。
「チキンライスの中にチキンが見えないんだけど」
「ええ、入れてないもの」
「チキンが入ってないチキンライスって……」
 カラリとした答えに俺が思わず呟くと、
「ねえクロード」
 とレフィが甘く笑った。ドキリとする。俺の欲目を引いても美人なコイツに、この笑顔は反則過ぎると思う。
 バクバクと音を立てる心臓をそのままに、何だ、と思って耳を傾けていると、
「ドックフードに犬は入っていないでしょう?」
 レフィはそのままの笑顔でそう言い放った。

 いや、そうだけども。

 夫になった今でさえ見慣れないこの笑顔に、うっかり納得してしまいそうになった俺が、確かにいた。









俺と彼女
結局その後、俺たちは買い物に行った。ああ、勿論手を繋いで。 きっと明日の朝食は、チキンの入ったチキンライスになることだろう!
絶賛更新ラーッシュ!(笑 絶賛かどうかは知りませんが。 これシリーズ化したいなあ。しちゃおうかなあ(え   08/09/09  Thank you.