ぼくのこと。歩きながら、ぼくは考えた。
 みんなはぼくを大切だと言うけれど、どうしてなんだ? そもそもぼくは何なんだ?
 考えれば考えるほど焦る気持ちが積もるだけで、答えは出ない。ふう、と溜息をひとつ。
「もう……疲れたな」
 歩くのをやめて、ぼくは草原に寝転がった。やはり、空は暗闇のままだ。
「蒼い空が見てみたいな」
 それは、ほとんど囁きに近い声だった。ぼくの同じ名前をしたその色を、見てみたいと思ったのだ。
 目を閉じて、太陽たちのことを考える。
 ぼくに一番近いところにいる、と太陽は言った。太陽に一番近いのは、空だ。ぼくの居場所は、空にあるのだろうか。
「こんな暗い空なら、嫌だな」
 ぽつりと呟いたら、何故だかとても悲しくなった。
 否、悲しい、というより。悲しさと腹立たしさ、それから――なつ、かしさ?
 どうしてだろう。ぼくは、ふるふると頭を軽く振った。
「懐かしいの?」
 思わず呟いてから、目を開いて口を抑える。誰に問い掛けているのだろう。
 でも、僕には、いつも隣で答えてくれるひとが、いたような。
 ぼんやりとした輪郭。
 もう一度目を閉じる。
 そういえば、空で待っている、と小鳥が歌っていた。
 ぼくが世界に色を与えるものだ、と春風は告げた。
「あれ?」
 散りばめられていたものが、ひとつになろうとしている。雲の切れ間から光が差すように、ぼくの正体が明るみに出てくる。

 ぼくのことが、わかりはじめていた。

 世界の色。そして、空。
「空の色?」
 蒼、とどこからか声が聞こえた。上だ。
 同じ名前。そうだ、ぼくの名前は――
「アオだ……」
 漠然とした呟き。それは確かな自信となって僕の中を駆け巡った。
 いつでも隣にいてくれた人、それは。
 勢い良く立ち上がると、ぼく――僕は大声を張り上げた。
「僕は、蒼だ!」
 途端、世界が変わった。
 大地から足が浮き、空気に身体が溶けていく。広くなる視界。小鳥たちが、下に見える。
 これだ、この感覚。
 太陽に一番近く、世界に色を与える者。

 ――僕は、空の『蒼』色だったのだ。

 晴れてゆく視界、記憶、思考。
 すぐ近くで誰かが泣いていた。
「……あ…、」
 息の詰まるような感覚が押し寄せてくる。

 僕は、ゆっくりと振り返った。






It is me.
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  09/03/27  Thank you for reading.